ヤザケン日記
フェアバンクス便り−アラスカの風物詩(?) ムース(ヘラジカ)
冬のアラスカと言って、まず大抵頭に浮かぶものと言うと、まずはオーロラ、それでもって白熊やら氷河やら、犬ぞりなど、独特のイメージが持たれているかと思うのだが、もう1つ忘れてはならないものがある。ムース(へら鹿)である。これほど、我々の日常に溶け込んだ野生動物は他にいるだろうか。時には道を歩いている姿や湖に寝そべっている姿が写真に撮られ、ローカル新聞の一面を飾るほどの人気者?でもある。御土産やさんにも人形やら、たくさんのムースグッズが飾られる。
ムースは生物学上の分類では「鹿」であるが、初めて見る人にとっては、およそそれとは想像がつかないのではないだろうか。よく、「馬がいましたよ」とか「あー、あのラクダの顔に似た動物ね・・・」などという声を聞くが、確かにそっちのほうが正しい表現であろう。オスなどは足から頭まで2メートル近くになるものもいるくらいだし。
鹿なので、こんな寒いところでも冬眠せずに、ひたすら冬の飢えをしのぐために、わずかに残るヤナギやトウヒの木の皮やら枝を昼夜問わずに探しながら徘徊している姿をよく見かける。道路脇や、ホテルの駐車場、果ては民家の庭先と、植生があるところには、「うそ?」と思われるほどよく見かけられる。レストランやホテルによく誇らしげに飾られている「ヘラ角」は、オスのムースに生えていたものなのだが(写真)、秋から冬にかけてメスとの繁殖期間を過ぎると、これが毎年ぽろっと落ちるため、冬から春までの間は顔だけ見る限りはオスもメスも同じ顔をしている。性別を見分けるのは行動パターンから分かる。大体、単独でいるのがオス、子といるのがメスであろうか(体格もオスの方が大きい)。
野良犬と比べては失礼な話なのだろうが、それほど「うろうろ」しているのが見かけられる。街中を離れ、ちょっと森に続くハイウェーなど走ると、写真のようなムース注意の道路標識が見られ、実際車を走らせていると、道端にムースがお構いなしに木の葉や幹の食事に夢中であるし、時には道路上をのそのそ歩いているときもある。道路は常に除雪されているので、彼らにとっては移動するのに好都合な場所なのであろう。これが、まだ明るい昼間ならまだいいが、夜、郊外は街灯もままならぬ道をムースがのそのそ出てくる中、車を走らせることを想像してもらいたい。冷や汗ものである。実際、ムースに気づくのが遅く、車の一部に接触させたり(あるいは衝突なんてこともある)、ムースをよけたのはいいが、路面が凍結しているため車のコントロールを失いスピンさせてしまい路肩の雪に突っ込んだりと、車との事故はやはり多いのが実情である。実は、自分もこのムースの恐ろしさを実体験した1人なのだが、その時のムースの表情をしっかり覚えている。相変わらず、あの「のほほーん」とした顔で何事もなかったかのように立っていた。
地元の人達にとっては、もう普段の生活の一部で、ムースがいようといまいと普通に車を走らせるが、自分なんぞはムースを見かけるや否や、身を乗り出して「あ、ムースだ!」と心躍るのを覚える。相変わらず、車の通りが多いところでも平然と立っているのだが、そんな中「危ないなあ」と思いつつ、あののんびりした顔につい笑みがこぼれてしまう今日この頃である。案外、アラスカのこのゆっくりした時間の流れとムースの顔って言うのは調和しているのかも知れない。 (昨年: ヤザケン)
プリンセスホテル前のムース 車が来たら道端に逃げるムース ムースに注意の標識